“地域猫”の最前線はどうなってるの? 『ちよだニャンとなる会』インタビュー

ねこねこ横丁にて連載中の『ノーにゃんこ ノーライフ~僕らの地域ねこ計画~』コミックス第1巻発売に合わせ、テーマでもある“地域猫”について一般社団法人ちよだニャンとなる会にお聞きしました。

野良猫が増え続け、交通事故に遭ったり殺処分されたりしないためにも、野良猫を保護して不妊手術を施すことで、猫の数をコントロールし、人と共生できる環境作りを目指す地域猫活動のリアルとは―!?

 

代表理事・古川尚美さん(左) 副代表理事 香取章子さん(右) %e3%83%8b%e3%83%a3%e3%83%b3%e3%81%a8%e3%81%aa%e3%82%8b%e4%bc%9a

 

ねこねこ横丁編集部(以下、編集部):今日は野良猫の殺処分0を6年連続で継続中の千代田区でご活躍されている、香取さんと古川さんに、なぜ殺処分0が可能なのかをお聞きしたいと思います。

編集部:まずお二人のプライベートな猫事情と猫の保護活動のきっかけとなった原体験などを教えていただきたいのですが…。

香取:私は猫を5匹飼っております。生まれたときから実家がいわゆる猫屋敷で、家の中に最多で16匹の猫と暮らしている環境でした。赤ちゃんの私がハイハイしながら猫を追いかける写真も残っています(笑)。

古川:私は猫を3匹飼っています。私が幼いころは今とは猫に対する考えもだいぶ違っていて、私が学校に行っている間に近所で生まれた仔猫が処分されて悲しい思いをしたのが、猫に対する初めてで大きな悲しみの体験でした。

 

編集部:千代田区で保護猫活動をされるようになったのは何が始まりだったのですか?

香取:私たち、ちよだニャンとなる会の前身は千代田区行政によって集められたボランティアでした。現在、80名ほどのボランティアが在籍していますが、最初から今のような殺処分0が実現したわけではありません。

 

編集部:殺処分0というのは全国で初という奇跡的なことだと思いますが、それを実現できた一番の要因はなんですか?

香取:飼い主のいない猫の問題は、ボランティアだけが活動しても成功しません。政治、行政、獣医師、ボランティアと住民のみなさんが連携・協力して取り組まないと難しいでしょう。千代田区では、まず政治家(区長と議会)が旗を振り、行政が具体的な取り組みを考えてボランティアを集め、獣医師と協力し、地域住民の協力を得て、一丸となって保護猫活動にあたったのが一番の成功要因と思われます。

私は本業で猫問題を取材・執筆するフリーランスライターですが、これまでの取材経験から言いますと、ボランティア個人あるいは団体が主導して地域社会の問題を解決するのはきわめて難しいのではないでしょうか。地域社会にはいろいろな感じ方、考え方があります。特定の個人や団体が「地域猫活動を行います」といくら説明しても、なかなか普及していくものではありません。

千代田区でも、初期のころに、ボランティアが主導で去勢・不妊手術を行い、トイレを設置・管理し、食べ物を与えたら片づけるという、いわゆる3点セットを実行した人たちもいました。しかし、「手術してくれたのはありがたいけど、他人の土地で猫を飼っていいとまでは言っていない」という反応になることが少なくありませんでした。行政はふん尿の苦情に困っていたりするわけですが、ボランティアが苦情対応にひと役買ってふん尿を片づけていたら、ボランティアが飼い主のいない猫への責任を持たなければならない雰囲気になりかねません。これではボランティアのモチベーションも下がるばかりです。

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古川:飼い主のいない猫は、車にはねられることも多く、寿命が短いというのは事実ですが、近年、猫が口にするキャットフードは改良が加えられ進化し、猫の寿命を大きく延ばすことになり、3~4年程度だった野良猫の寿命は長いもので10年近くになっています。そうなるとボランティアは長年、飼い主のいない猫の世話を続けなければならず、引っ越しもままなりません。猫を可哀想、可愛いと思えばこそ、ボランティアは大きな負担を強いられ、つらい気持ちで過ごすことになります。猫に関わっている人たちのストレスは大きなものがあるのではないでしょうか。

香取:「猫好きなボランティアなんだから猫の世話をするのは当然だろう!」という意見もありますが、猫は誰か1人のものではありません。猫が住んでいる地域みんなのものです。

 

編集部:ねこねこ横丁で連載中の『ノーにゃんこ ノーライフ~僕らの地域ねこ計画~』も地域猫活動がテーマですが、冒頭から町内会の人間とボランティアとの対立が見られます。ちよだニャンとなる会も町中で個人的に餌やりをする人と揉めたりしたことはありますか?

 

香取:あります! 今でこそ、千代田区のみなさんのご理解・ご協力が深まり大きな衝突になるようなことはありませんが、最初は、餌やりをする人とコミュニケーションをとるのが大変でした。近づいただけで喧嘩腰になられたこともあります。

私たちは「餌をあげないで!」という活動をしているわけではないのです。

 あくまで「人と飼い主のいない猫との共生をめざして」という理念に基づいて活動しているので、最初の声掛けはあいさつからです!

これもよくご理解いただきたいのですが、餌やりをするから猫が増えるのではないんです。

去勢・不妊手術をしないから猫が増えるんです。

 

編集部:ちよだニャンとなる会が野良猫を保護し、手術やケアをされた猫が希望者に譲渡されますが、その際、譲渡先の方にそれまでかかった費用が請求されることはないと、ちよだニャンとなる会のホームページにはありますが、本当でしょうか?

古川:はい。譲渡先の方に手術費用や保護した際に発生したお金を請求することはありません。

編集部:千代田区は他の区より保護猫に関する助成金が多く出ているのですか?

古川&香取:いいえ、そのようなことはないです。むしろ他の区より少ないと思います。

編集部:? ではどうやって手術や保護する際の費用を捻出するのですか?

香取:まず、社会貢献意識の高い獣医さんが飼い主のいない猫の去勢・不妊手術等の医療を抑えた金額で引き受けてくださっているという点と、

一番の要因は「使いやすい助成金」です。

 古川:たとえば、ある区では一部助成といって手術費の一部を行政が負担して、残りをボランティアが立て替え、譲渡先の方にそれまでかかった費用を請求するというシステムがあります。これでは年に何匹も保護し手術するということは難しくなってしまいます。

千代田区の保護猫の去勢・不妊手術費は限度額で助成金がオス17,000円、メス20,000円、妊娠中のメス25,000円まで出ますし、保健所の車が捕獲器を搬送してくれる等、ボランティアがタクシー代等の過剰な負担を背負わないですみます。

香取:しかも、身元がきちんと証明できる方であれば千代田区以外にお住まいの方でもこの助成を受けられるんです。

編集部:それは素晴らしい! 千代田区の保護猫活動が「千代田ブランド」と呼ばれ猫の譲渡会の際は整理券に長蛇の列ができ、譲渡する猫全ての譲渡先が決まるというのも頷けます。

香取:「千代田ブランド」という言葉が出ましたが、これは言うほど簡単なことではないです。

1匹の猫を保護して動物病院に運び、ノミや体内の寄生虫を駆虫して、猫エイズなどのウイルスチェック、去勢・不妊治療を行い、マイクロチップを装着し、譲渡しています。もちろん、人の手に余る(飼うことがきわめて難しい)猫を譲渡するようなこともありません。

 

古川:「タダだから保護猫をもらう!」という方を譲渡先としてお選びすることはありません。譲渡する際、お金がかからないということが我々の保護した猫が人気になる原因ではないと思います。

あくまで、ちよだニャンとなる会から猫を迎えるという人は我々の活動にご賛同いただいているという認識でおります。

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香取:そうです。ちよだニャンとなる会は会員となって下さる方にご寄附をいただいていますが、これら基金は「次の保護猫活動へのエール」であって「対価」として受け取るわけではないということです。もちろん、我々ちよだニャンとなる会は無報酬で活動しています。

 

編集部:なるほど。よくわかりました。ちなみに、譲渡されても猫がどうしても馴れなかったり、譲渡先の人と猫の相性が悪かった場合はどうなるのですか?

古川:その際は猫をお返しいただいています。無理に飼う必要はありませんから。

編集部:お互いの幸せのためにはその方がいいということですね。

最後に一言お願いします。

 

古川&香取:私たち、ちよだニャンとなる会だけでは殺処分0という成果は出せなかったと思います。何度も言いますが政治と行政の主導、獣医師のご理解、ボランティアと地域住民の密接なご協力の賜物です。

もし、ちよだニャンとなる会から猫を譲渡されたら、またホームページやフェイスブックを覗いていただき、2匹目の猫を迎え入れてくれることがあったら本当にうれしいです!

 

千代田区の殺処分0をあと押しするのは個人の活動だけではなく、みなさんの努力の結晶なのだということがよくわかりました。

ちよだニャンとなる会の古川尚美様、香取章子様、ありがとうございました。

 

※このインタビューは2017年8月時のものです。ご覧いただいている日時によっては環境や制度、法律が変わっている場合がございます。詳しくは、ちよだニャンとなる会ホームページフェイスブックをご確認ください。

 

 

一般社団法人ちよだニャンとなる会

2014年設立

所在地 〒102-0075 東京都千代田区三番町9-1 312

※ちよだニャンとなる会では、猫の預かりや訪問には対応しておりませんので、ご遠慮ください。
※詳しくは、ちよだニャンとなる会ホームページへ。

 

古川尚美(ふるかわ なおみ)

千代田区内でIT系の会社経営と、猫ボランティアに明け暮れる日々。外で暮らす猫が日本中からいなくなることが目標。

 

香取章子(かとり あきこ)

千代田区で生まれ育ち、現在も仕事場・住居ともに千代田区。出版社勤務の編集者から猫・犬について取材・執筆するフリーランスライターに。主著に『猫への詫び状』『ペットロス』(共に新潮社)等。