画人文人 よんじょう
南仏コートダジュール在住の日本人。藍の万年筆で描かれる独自の絵は不思議な魅力を放つ。個展で展示される100点ほどの絵はほぼ完売。アメブロのヨーロッパ部門で有名なブロガーでもある。
<南仏ネコ絵巻>ではフランスの猫にまつわるグッズやよもやま話をイラストとともに紹介します。
「フランス絵巻」
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仏国で放送されている“猫達のシークレットライフ”という番組を観たんですわ。

飼い猫の首にGPSカメラをつけて、飼い主の留守中に猫が何をしているのか?を、
24時間、追跡するというもの。

かなり大きなGPSをクビにつけられるのを厭わないのが意外ダスが(仏猫は寛容なのか?)、日々の行動を文字通り“猫目線”で見られるところが新鮮であります。

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被験者(被験猫)は100頭。
パリに暮らす50頭と、田舎に暮らす50頭。
猫種、年齢、性別はバラバラ。観察期間は1頭につき24時間を1ケ月。
収録ビデオを飼い主に見せ、愛猫の知られざる裏の顔とご対面~という内容です。

今回は、“田舎に暮らす猫“の中から、印象に残ったケースをピックアップしましょう。

まず、「えーっ」と思うのは、(取材先の)飼い主らは平気で“放し飼い”にしていた点。
“猫が外に出たがるから”そうしてるといった体(てい)で。仏国では猫にも個人主義が適用されるんですかね。

猫の本能を優先するのが愛情ということなんでしょうけれど、猫の身の危険は心配せんのか?
基本原則がスッポリ欠如しているところが、いかにも仏人らしい。では、外に出た猫達は一体どんな行動をしていたでしょう。

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どの猫にも共通していたのは、1日のうちに、まさかの長距離&広範囲をほっつき歩いていたこと。

近所の庭に侵入するのが日課になってるのも多く、飼い主とは面識のないご近所さんが猫とはすっかり顔馴染み、が何年も続いていたり(後日、飼い主はご近所に“いまさらの”お詫び回りをするハメに)。

中でもビックリだったのは、18kmも!往復している猫がいたこと。2本足(人間)には毎日18km歩行は到底無理なんで、家猫がアスリートだったという事実はあまりにも想定外。
ワタシも、“猫=寝子”が由来であるという定説を塗りかえさせられました。寝子なのに、ちっとも寝てへんがな。

しかも、このアスリート猫、飼い主が家に戻る頃には、”何もなかったような顔で“ソファーで寛いでいるんですよ。何年も一緒に暮らしていながら飼い主はまったく気づかないのも無理はなし。
飼い主はビデオを見る前に、“ぬいぐるみのようにおとなしい猫ちゃんです“と紹介していただけに、ビデオ後は、言葉を失っておられました。“絶句“というのはこういう時に使うんやな。

次に印象に残ったのは、毎日の散歩コースが”森林“だった猫。
飼い主は、“こんな森の中に行っていたなんて!”という事実に絶句でしたが、さらなる驚愕シーンと直面する事になります。

森を散策中、叢(くさむら)から、猫の足元にヘビが出現したんです(猫の首につけたカメラがキャッチ)。
幸い、蛇は横断しただけで、何事もなかったものの、もし、これがマムシで、猫がちょっかいでも出していたら、“森から還らぬ人(猫)”と化してたでしょうね。

このビデオを見ていた飼い主は、蛇出現シーンで蒼ざめ、ショックのあまり泣き出し、放送室を飛び出してしまいました(数十分後に戻ってこられましたが)。

飼い主の飛び出し方も猫並み。
オンエアー中、出演者が前後不覚になって、オカマイなしの行動をするのも仏人と猫くらいですわ。そもそも、号泣する以前に、猫を放し飼いしたのは誰やねん。

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最後に紹介するのは、やはり森林散策コースの猫。
この猫を撮影中、カメラから奇妙な鳴き声が聞こえてきたんです。これまで耳にしたことのない動物の声。

これが、まさか愛猫の鳴き声であるとは、飼い主にもわかりませんでした。

どんなシーンで、この鳴き声をやりだしたか?というと、木にとまっている鳥を見つけた瞬間。この声で、鳥=獲物に近づいていたのです、忍び足で。

鳥の鳴き声に似せた(つもりの)猫のなりすまし詐欺? つまり、鳥に“仲間が来た”と油断させておき、ガバっと襲う作戦か、と思いきや、事実は想像を超えておりました。

この鳴き方は、猫の野生が覚醒した現象で、“すでに鳥を獲って食べている自分”をDNAレベルで想起しているものラシイ。
つまり、この猫の脳内では、“捕まえた鳥を堪能している最中”で、“ムシャムシャと鳥を咀嚼している(つもりの)音”が奇妙な声の正体だったのです。妄想も、ここまでいくと不気味ですな。

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飼い主達は、愛猫の全貌を知ると、一様に驚愕とショックが入り混じった表情で、しばらく茫然となります。まるで、長年連れそった配偶者の裏の生活を知った時のよう。

ショックというのは、誰よりもわかっているつもりの愛猫のことを、何もわかっていなかった自分への憤りと、可愛いぬいぐるみが得体の知れぬ存在だったことへの動揺でしょうね。

“ぬいぐるみのようなウチの猫”、“浮気しないウチの人”も、飼い主の勝手な脳内設定です。
脳みそは、本人の想定以上のことは処理できません。

猫自身にしてみれば、秘密にするつもりはないのが人間と違う点。外に出ると、ただ単に自然の姿(本来の猫)に戻ってるだけ、なんですけどね。

計り知れないワールドが存在しているのが猫ミステリーだす。

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