画人文人 よんじょう
南仏コートダジュール在住の日本人。藍の万年筆で描かれる独自の絵は不思議な魅力を放つ。個展で展示される100点ほどの絵はほぼ完売。アメブロのヨーロッパ部門で有名なブロガーでもある。
<南仏ネコ絵巻>ではフランスの猫にまつわるグッズやよもやま話をイラストとともに紹介します。
「フランス絵巻」
21-1

人間には“デキタ人”ってのがいます。猫にも“デキタ猫”というのがいるんです。今回は、“猫界のマザー・テレサ”のお話。

1つ目は、先天性の疾患があった仏人のエピソードです。
心臓の右側が肥大していて、心臓発作や突然死の危険とも背中合わせ。
画期的な治療法はなく、少女時代から何年間も投薬に通っていた30代女性。

主治医からは、スポーツ厳禁、妊娠出産も諦めるようにと宣告されていました。そんな彼女が、20代の頃、猫を飼い始めたんです。インドアな彼女に猫はピッタリ。
毎日、そばにいて、寝る時も一緒という生活になりました。
フト気が付くと、この猫が眠る時は、いつも彼女の心臓部分が定位置になっていて、猫が左胸にチョコンと寝ている間は病気のことも忘れていたト。

こんな生活が1年ほど続いた中、検査の日がやってきました。
毎年1回、心臓の精密検査を義務づけられている彼女は、同じ病院で同じ検査をしています。

結果。
それまで何十年間の数値がガラっと大変化(好転)。
生活習慣、食生活はいままで通りなのに、正常値に近づいていたのです。
キツネにつままれたような事態に、彼女は、<猫だ!(猫のおかげだ)>と直観したそうな。
もちろん、根拠はありませんが、キツネではなく、猫につままれてたんですね。

21-2

その後も順調に回復。数値が逆戻りすることもなく、とうとう、(人間の)赤ちゃんを出産!というミラクルに至ったのであります。
現在は、13歳になった猫と、人間の赤子が一緒に暮らしています。

このエピソードで、コジン的にホっとしたのは、猫が病気の身代わりになっていない点。

日本人の私は、つい、“身代わり”思想=“鶴の恩返しカルチャー”が出てしまうんですわ。
たとえば、“猫を拾った飼い主が目の視えないおじいさんで、その目を猫がペロペロとなめているうち、おじいさんの目が視えるようになる。おばあさんと手を取り合って喜んでいたら、猫の目が視えなくなっていた”みたいなのが昔話の典型パターンでしょ。

日本昔話なら、さきほどの猫は、飼い主の難病が治った時点で死なないと帳尻が合わんのよ。

つまり、昔話の教訓は、幸せの総合量はプラスマイナスゼロ。“2つ良いこと、さて、無いものヨ“の法則。
一方、仏女の猫パターンは、減ってるものは何もない。どころか、赤子まで増えている。“マイナスはプラスを産む”法則。

以上、“法則”として、チョックラ強引にまとめてみました。
だから何?

21-3

2つ目のエピソードは、道端で瀕死状態の子猫を拾い、24時間つきっきりで看病した獣医の話。

子猫は蘇生し、翌日から元気回復。健康な成猫になりました。日中は、獣医の職場(個人病院)で一緒に過ごしているのですが、ある時、獣医が妙なことに気づくんです。

この病院には毎日、猫や犬、小動物が治療にきて、入院するケースもあります。
入院といっても、人間のような個室ではなく、ケージがベッド代わりで、同じ部屋に何匹も収容されている状況。
獣医の猫ちゃんは、この入院部屋に陣中見舞いに行くんです。すると、患者さん達~犬も猫も鳥も~は、(この猫がやって来ると)なんとなく穏やかな感じになって、治癒が早くなるそうな。

「この猫が、皆のストレスを軽減しているんでしょう」と、獣医談。根拠はないけど、お医者さんなので、“盛った話”ではなさそうです。

ほかにも、ペットを失った飼い主から「この猫ちゃんを2~3日、貸してもらえないか?」という申し出があったり。獣医は、飼い主の心が少しでも癒えるなら、と、猫ちゃんを数日間、渡します。

数日経って、猫を返しに来る頃には、飼い主は元気を取り戻していて、「悲しくて毎日あんなに泣いてたのに、猫ちゃんのオカゲですっかり癒えちゃった」という。

さらに、この猫の噂はひろまり、今では、「週末だけお借りしま~す」のノリで、猫ちゃんを借りるスタイルも流行っているモヨウ。
すべて、“貸出無料”です。
通常、猫は、知らない人の家に行くのは超ストレスですが、獣医の猫ちゃんは、疲弊してるわけではなく、むしろ、行った先々で溺愛されて、ヨイ気分で過ごしているんでしょう。

この猫を、鶴の恩返しでたとえると(別にタトエんでいいんですが)、死にかけていた自分(猫)が獣医に拾われ、献身の愛で命が蘇生。
猫は自分に注がれた愛を、今度は、ほかの動物や人間に還元。
この循環回路こそ、大いなる宇宙の法則です。

恩を返すという行為は、意識的に返すものではなく、この猫のように“満つると溢れて、かってに還る(めぐる)”もの。
与えた側の気持ちが純粋なら、放っておいても、必ずこの循環回路になります。
与えたのに恩を返さない、恩知らずめ、というケチな観念が出てくると、この循環は生じません。

日本の昔話に出てくる“恩返し”は、自分の羽を毟って形にするような犠牲精神を伴います。
自己犠牲が甘美な悲劇となって心に刻まれている為、日本人のDNAには“可哀想好き”と、“恩着せがましい精神”がジメ~っと、こびりついてるのかもしれません。
猫を見習って、サラっとしてくださいね。

ところで。
猫から癒しの何が出ているのか、目には見えませんが、研究者の間では“ronron therapie”(ロンロンテラピー)で証明されているそうです。
ronronというのは、猫が嬉しい時に出す音(ゴロゴロ)のこと。
ゴロゴロの周波数は25~50ヘルツで、この波動がストレスを軽減し、癒しの効果があるようだと考えられています。
ちなみに、猫に触れていると(飼うと)、心臓病のリスクが30%減るという説もあるトカ。
心が安らぐと、心も臓も(心臓)リラックスするということでしょうネ。

21-4